それから僅かに眉を寄せて落ち着きなく腕を組み直すと、素っ気なく横を向く。

「そう……」

「……じゃあ……私、そろそろ……」

私がスーツケースを手にドアに近付こうとした時、カグヤさんが弾かれたように私に言った。

「す、翠狼を待たないの?!白狼の家にいるから電話したら、」

私はカグヤさんの言葉を遮るように首を横に振った。

「会わずに帰ります」

……会わない方がいい。

だって、これ以上嫌われたくないもの。

それに、私を見るときの翠狼の憮然とした顔も、悲しい。

カグヤさんの身体を避けてドアを抜けた私に、彼女は怒ったように言葉を投げ掛けた。

「好きなんでしょ?!どうしてちゃんと伝えないの?!なんで会わずに帰るのよ?!」

好き。

泣きたくなるほど、私は翠狼が好き。

でも、この想いは伝えない。