「お嬢さん、お別れを言いに来たんだ。それからすまなかったね。傷は大丈夫かい?」

そう言われて私は、左手を胸に当てて傷口を押してみたけれど痛みはなかった。

「……大丈夫です」

マリウスは小さく頷くと、豊かなヒダのマントの下からなにかを取り出した。

「それから、これを君に」

言いながら手のひらを開いたマリウスがもう一方の腕を私に伸ばした。

これって……指輪?

「……これは魔女に作らせた『封じのリング』なんだ。クリスティーヌの形見なんだけれど……君の役に立てばと思って」

私に……?

紐を四つ編みにしたようなデザインのプラチナリングの中央には、燃えるようなルビーがはめこんである。

私はその一粒のルビーに息を飲んだ。

熱をはらみ、燃え続けているような、世界中で一番の赤がこの赤なんじゃないかと思うほどの赤色。