「ああ……すまないね。一応大切にしているんだ」

ああ、私の血を飲み、翠狼を狙った偉大なるヴァンパイアのマリウス。

そんな彼なのに、どうして私は可哀想だと思ってしまうんだろう。

どうして、これからの彼の人生が穏やかであればいいと願うのだろう。

「君は優しいんだね」

そう言ったマリウスの顔がジワリと滲んで歪んだ。

慌てて涙を拭うのに、止まる気配がまるでなくて、私は困って鼻をすすった。

「泣かなくていいんだよ」

マリウスの諦めたような微笑みが切ない。

それを見たらもう言わずにはいられなくて、私は心にあった思いを口に出した。

「だって、こんなの嫌なんです。種族が違うから争いが起こる。でも、その逆だって願えば叶うと思います……」