だって、マリウスの言葉が頭から離れなかったから。

それから、あの苦しげな瞳も。

『私はね、永遠の命も『偉大なるヴァンパイア』の称号にも興味などなかったんだよ。ただ、彼女と……クリスティーヌと共に生きたかった』

私にはマリウスの心を救ってあげられる言葉を思い付かないし、彼の生きた七百年を察することも出来ない。

けど、これは……これはマリウスに返さなきゃ。

私は床に倒れ、翠狼に押さえつけられているマリウスの前にペタンと座った。

「……どうしたんだい、お嬢さん」

先程の戦いが嘘みたいに、マリウスは穏やかに笑った。

私はそんなマリウスの花のような微笑みを見つめながら、握り締めたままだった短剣を差し出すとそっと傍に置いた。