巨大な狼と化した翠狼にくわえられているマリウスはまるで壊れた人形のようで、私はさっきまで静かな口調で話していた彼を思い返さずにはいられなかった。

ヴァンパイアとして生まれたマリウス。

私は彼の歴史を知らないし、人狼族との間に何があったのかも知らない。

だから、ここで私が二つの種族に意見なんか出来ない。

でも、でも……。

私はマリウスの顔を見つめた。

徐々に輝きを失っていく赤い瞳が悲しい。

やがてマリウスが唇に浅い微笑みを浮かべた。

「たとえ今……君に首を噛み砕かれても身体を引き裂けはしないよ。そうできてるんだ。偉大なるヴァンパイアはヴァンパイアにしか倒せない。つまり、君達に対しては不死身なんだ」

翠狼がマリウスを床にドサリと落として言葉を返した。