「部下が協定を破ったのは私にも責任があるけれど……人狼族にあそこまでやられてしまうと私の面子が丸潰れだよ。見過ごせないのはこちらの方だ」

翠狼はそんなマリウスに敢然と口を開いた。

「部下を統率できないどころか命を狙われていた事を恥じず、人狼を責めるとは実にヴァンパイアらしいな。血の通わない者はあさましい」

みるみるマリウスの顔が強ばり、彼は唇を引き結んだ。

けれどそれはほんの短い時間で、すぐにマリウスは赤い瞳を光らせて不敵な笑みを見せた。

「そこのお嬢さんがね、私に懇願したんだよ。『人狼族に手を出さないで欲しい。翠狼を狙う代わりに私で許して』とね。つまり彼女はヴァンパイアの花嫁になる決心をしたんだ。私はね、『愛』なんて信じないんだ。そんな私にこの娘は愛を証明しようとした。…けど……」

マリウスがゆっくりと首を傾けてバキバキと鳴らした。