「どうして……?」

だって、マリウスから引き剥がすように私をさらったその人は、翠狼だったんだもの。

「翠、狼」

「話は後だ」

私を抱いたままの翠狼の瞳が、みるみる深くて鮮やかな緑色へと変わっていく。

人の姿のまま、瞳を翡翠色に変化させた彼を初めて見た私は、息を飲んでただ見つめた。

「藍。お前はここから動くな。桜花!藍を頼む」

「はい、翠狼様。すぐに止血します」

その時、風と共にひとりの美しい女の人が床に降ろされた私に近付いた。

この人は、確か教会で……。

桜花さんは裂けた服を開いて私の身体を見ると、軽く頷いて口を開いた。

「裂傷はそう深くないわ。凰狼様の薬を塗るから横になって」

私は言われるままに部屋の隅の床に横たわると桜花さんを見た。