「そうだよ。私は……この短剣で刺された」

ああ、マリウスはどんな思いで今日までこの短剣を持っていたのだろう。

愛している人に刺されるなんて……きっと辛かったに決まっている。

「私はね、永遠の命も『偉大なるヴァンパイア』の称号にも興味などなかったんだよ。ただ、彼女と……クリスティーヌと共に生きたかった」

そう言ったマリウスの瞳が悲しみに揺れていて、私は彼の胸の痛みと、律との悲しい過去の苦しみを重ね合わせた。

きっと……マリウスの孤独は、私のそれとは比べ物にはならない。

だって、七百年も生きているんだもの。

マリウスという人物を理解しようとも愛そうともせず、ただ彼の庇護にあやかりたいだけの者達の中で、七百年もの間、彼は過ごしてきたのだ。

傷付きたくないが為に自ら築き上げた壁も、それに拍車をかけたに違いない。