マリウスはこんなにも近い私に眼を向けながらも、まるで地平線の彼方を見るように眼を細めた。

「私にも君たちのいう、愛って感情を抱いた事があったよ、昔ね。でもその愛を感じていた人に刺されたんだ。キリストに祝福された銀の短剣とやらでね」

私は静かな声で淡々と話すマリウスの言葉に眼を見張った。

「身体の痛みよりも心の痛みの方が強くてね、そのうちそれが怒りに変わって……正気に戻った時には既に、私は彼女の血を吸い尽くしてしまっていたよ」

淋しそうに笑うマリウスの眼差しが、少し小刻みに揺れた。

「『ずっと愛してる』って、彼女は言ったのに……」

私は言葉を発する事が出来ずに、マリウスの綺麗な顔を見つめた。

「こんなにも長く生きているのに、愛がどんなものなのか私には分からないんだ。……愛なんて言葉を聞くたび私を刺した瞬間の彼女の顔を思い出してしまって、胸の中に虫が這いまわるような不快感で我慢できない」