それからゆっくりと眼を開けてマリウスに答える。

「彼は私にとって、とても大切な人です」

「それって、人間がよく口にする……『愛』ってやつ?」

私はマリウスに頷いた。

「……フッ」

マリウスが薄い唇を引き上げて笑った。

それからテーブルの上の一輪挿しに手を伸ばすと、そっと薔薇に触れる。

気がつくとマリウスの瞳は薔薇と同じ程濃い赤に変化していて、それを見た私は心の中で律の瞳を思い出した。

「知っているかもしれないけれど、私はもう長く生きているんだよ。そうだね……かれこれ七百年くらいかな」

マリウスは続けた。

「長く生きるとヴァンパイアも様々な事を学習する。時間がかかってしまうから、今君に私の生きてきた七百年を語ることは出来ない。でもね、悪いけど私は人のいう愛というものを信じていないんだ」

なんと言えばいいか分からずに、私はコクンと喉を鳴らした。