「っ!!」

踵を返そうとした瞬間、律は既に私の腕を掴んでいた。

数メートルの距離を一秒にも満たない時間で音もなく縮めた律は、ドラマで見たヴァンパイアと同じように素早い。

私の驚きなどに興味がない律は、引き戸の鍵をかけてから舌打ちした。

「魅惑の血の呪縛から解放されたかったのに……獣臭いアイツらのせいで、計画を変更せざるを得なくなったよ」

律はそう言うと、氷のような冷たい瞳で私を見下ろした。

「マリウスに、君を捧げる」

……マリウス……どこかで聞いたことがある名前だ。

私は律から顔を背けると、必死になってそれを思い出そうとした。

マリウス……マリウス。

心臓が破裂しそうな程の恐怖と緊張の中、私は歯を食いしばってそれに耐えようとした。