「分かった……じゃあね、律くん」

「ん」

舞ちゃんという女の子が、ゆっくりとした足取りで出入り口に立っていた私の脇を通りすぎた。

シャンプーの香りに交ざる、微かな血の匂い。

きっと彼女は律に暗示をかけられて血を飲まれたんだ。

「なんだよ……元カレだからってそんなにぎこちないとなんか悲しいな」

……逃げなきゃ。

そうだ、翠狼に電話……いや、携帯電話はスクバの中で取り出すのに時間がかかる。

なにも出来ない私を見て、律がゆっくりと立ち上がった。

「狼に清雪様を殺された。どうしてくれるんだよ」

律の瞳がいちだんと赤く光り、恐怖心からか、私は全身がみるみる冷たくなっていくのを感じた。

早く逃げなきゃ……!