「ここでさ、なーんもしないでボーッとしてたらさ、なんて言うか、無になれんだよな」


コウちゃんが静かに言う。


私はコウちゃんの声を聞き取ろうと、髪を耳にかけながら必死に耳を傾ける。


コウちゃんの小声が波に拐われそうになったけれど、なんとか捕まえられた。


「時間がある時は、こうやって2、3時間海見てんだ」


「そんなに!?」


私が驚くと、コウちゃんはコクンと頷いた。


「嫌なことぜーんぶ、この波が洗い流してくれそうでさ。ここ、結構気に入ってんだ」


「へー。知らなかった。コウちゃんがこんなところに来てたなんて」


「今は部活ばっかだから、しょっちゅうは無理だけどな。ホント、時間あるときだけ。5分とかの時もあるしな」


コウちゃんはそう言って、私を見て笑う。