「皆さん明日から夏休みです!が、ハメを外しすぎないように!そして勉強も怠らずに!登校日に全員が元気で集まれるようにしましょう!」

今年もこの季節がやってきた。
みんなは楽しいとか言ってるけど私は正直、苦手だ。自分だけが別世界に生きているように思えるから。
夏ってのは「はじけてなんぼ」みたいな感じだけど、一緒に遊べる友達がいない私にとっては、屈辱でしかないんだ。
あぁ夏休みか…また勉強ばっかになるんだろうな。

予想は的中。
夏休みが始まり一週間ほどがたった。
ほぼ全員が幽霊部員みたいな部活に入っているお陰で部活はない。平日の午前中に補習があるだけ。あとは、たんたんと課題を終わらせるためだけに1日を使っている。あまりにも長い時間、机に向かってるもんだから、
「少しは外に出たら?」
そう母親に言われた。
外ね…。
あ、そういえば珍しく私を夏祭りに誘ってくれた子がいたんだった。
同じクラスの明空(みそら)ちゃん。
クラスの中で浮いてるほうな私にも、話しかけてくれる数少ない人。
〈私でよかったら空いてるよ〉
とだけLINEを送った。


「え、男女3人ずつ?!」
後日、明空ちゃんから送られてきた詳しい日程をみて思わず声をあげてしまった。
男女3人ずつの中に自分が入っているなんて不思議でならない。本当に私なんかでいいのだろうか、そう思った。
何を隠そう、私は一学期の間まともに男子と喋ったことがない。
でも断るわけにもいかないから、それなりの覚悟を持っておく事にした。


早いことでもう夏祭りの前日になっていた。楽しみだけど、不安がどんどん広がっている。明空ちゃんは何度聞いてもメンバーを教えてくれなかった。
もしかしたら男女三人ずつっていうのは嘘で、私のことを気に入っていない女子が、わざわざ呼び出したんじゃないか。とかいろんなことが頭をぐるぐる回っている。
母親に相談したら
「相変わらず心配症やね」
それだけ言われた。
やはり考えすぎなのだろうか。考えが負のループに陥りそうだからまた、勉強をすることにした。


はぁなんで来てしまったんだろう。
早々から後悔し始めている。なぜって予想以上に人だらけだからだ。
明空は
「楽しいね!」
なんていってるけど、どこがたのしいんだか…。
そして今から男子達と合流するらしい。
「あ、いたよ!おーい!!」
その声に手を振る三人の男子達。
私の知らない人ばかりだったから、わざわざ自己紹介をしてくれた。

「あ、ども。龍輝(りゅうき)っす。」
第一印象、チャラ目なやつ。

「はじめまして。雅人(まさと)です。」
第一印象、真面目そう。

「こんにちは、暖人(はると)って言います。」
第一印象、優しそう。
一応、若干一人を除いてだけど良い人そうだからよかった。これから楽しみだな、なんて思っているのは気づかなかったことにする。

「あ、そういえば君の名前きいてないっす。」
チャラ男が口を開いた。
そういえばまだだった。
「愛璃(えり)」
それだけ言って明空のところへ逃げてきた。なんか、あいつとは関わりたくない。そう思った。

お祭は案外楽しかったけど、久しぶりだったからか疲れた。
「そういえば、あと少しで花火が始まるよ」
そう言う明空はテンションがたかめ。ちょっと休むところないかな。なんて思いながら歩いていた。

「あれ?」
一緒に来ていたみんなの姿が見えない。これはやばい。はぐれてしまったみたいだ。
そのことを自覚した途端、体が震えてきた。そして立っていられなくなって、その場にしゃがみ込んだ。しばらくすると涙がでてきた。どうしよう。明空に連絡しなきゃ。そう思っているのに手が震えていて携帯をうまく操作できない。

楽しかったお祭が悪夢に変わろうとしていた。せめて花火が始まるまでには見つけなきゃ。なんて思うけどうまく動いてくれない体じゃ、人混みから抜けることすら困難だった。とりあえず、道の端っこには来れた。その時だった。
大きい爆発音とともに辺りが明るくなった。
花火だ。
花火はもっと綺麗なものだと思っていた。一人で見るとこんなにも寂しく映ってしまうんだ。引っ込んでいた涙がまた、溢れ出してきた。

これじゃ虹色じゃなくて涙色の花火だ。

「何泣いてんの?」
振り向くと例のチャラ男がハンカチを持ってたっていた。
「どうせ、はぐれて一人で花火見て寂しくなったんだろ?」
図星すぎて何も言えなかった。
そしてしばらく、彼の優しさに甘えていた。彼は泣きじゃくる私を嫌な顔ひとつせずにずっと背中をさすってくれていた。
「ほら、顔あげなよ。花火、綺麗だぞ。」
言われた通り顔をあげてみる。
確かにそこにはとても綺麗な花火があった。

さっきの涙色じゃなくて綺麗な虹色の花火。

彼の優しさに余計に涙がとまらない。
「おいおい、俺が泣かせたみたいじゃん。」
勘弁してくれとばかりに彼は言うけど、私は泣きやめないままだ。

花火が終わるまで二人でいた。人は見かけによらないものだと身をもって体験した。龍輝はチャラいけどとても優しい。それに一緒にいて落ち着く。まだ出会って数時間しかたっていないのに、龍輝のことが気になった。

「あ、こんなとこにいた!」
明空の声だ。もう心配したんだから。なんて言ってる彼女の目にはうっすらと泣いた跡があった。
その後はちょっと屋台を回って帰ることになった。

「なぁ、LINE交換しよ」
断る理由もないからオッケーする。

-Ryuki-

新しい友達が増えた。

何気なくLINEを開くと龍輝からメッセージが届いていた

〈今日はありがとな!また今度遊ぼうぜ〉

彼なりの優しさなんだろう。迷子になったことには一切ふれていない。
この時の私は気づいていなかった。
本当の自分の気持ちに。