「悪いけどこれは食べないでいよう」


厚哉との思い出に入り込んできそうで嫌だ。
他の人の思い出なんて私には要らない。

厚哉とのものがあればいい。
私はやっぱり厚哉だけが好きだから。


意思を固めて厨房に入ると、昨日と同じように瀬さんがフライヤーの準備をしている。
私は二度手洗いをし、保温ジャーに近付いて昨日の残りご飯があるかどうかを確認した。


『ボンッ!』という音がしたのは、ジャーの蓋を閉めようとした時だ。
何が弾けたのかと驚き、慌てて白瀬さんを振り返った。


「あっぶなっ…誰だよ。昨日のバイトは…!」


狼狽える様な声を出す白瀬さんの手からチャッカマンが転がる。
尻餅を着いた状態のままでいる彼が、恐る恐る手を伸ばしてガスの元栓を閉めた。


「白瀬さん、手が!」


咄嗟に名前を叫んだ。
私の声に気づいた彼が、指差す方向を確かめる。


「…ああ、引火した時に焼けたんだ」


焼けたというのは火傷の意味だ。
黒い油のススと一緒に表皮の一部が赤くなってる。


「大変!冷やさないと!」


見る間にどんどんど水泡が出来上がった。どうしたらいいか戸惑うばかりでオロオロと彼の隣にしゃがみ込んだ。


「水掛けないと…でも、皮も捲れそう……」


どうすればいいのか分からない。
白瀬さんの手は痛そうで、触りたくても触れない。


「これくらい何ともない!」