元々少し崩れ気味だった日常がまた崩されたような気がした。
でも、それはきっと誰の責任でもないから恨めない。


(もう少し残念な気持ちを言葉にするとかしてくれればいいのに…)



頑張れば…なんて言い方をされると、ムキになってやらなきゃいけない気がしてくる。
私は厚哉と張り合いたい訳じゃないのに。ただ、厚哉と触れ合って語り合いたいだけなのに。


(なのに、どうして最近こんなふうになるの?)


悲しい気持ちで食器と向かい合った。
一対で揃えた食器の中には、同棲を始めた頃の淡い期待や願望が込められている。



(ずっと一緒にいたいと思って買い揃えたのに…)


一人分の食器を洗う時と同じ様な虚しさを感じながら2人分を洗う。
お湯ですすぐと洗剤の泡も汚れも流れ落ちていくのに、心に吹き溜まった虚しさだけは拭うことができなくて残る。



(もう、やだ。こんなの……)


これ以上どうか私達の日常を崩さないで。
私はただ厚哉と一緒にいて、楽しい生活がしたいだけなの。


思いがけずにシンクの中に雫が一滴落ちていった。
泡と同じ様に消えてしまった涙のことを厚哉は何も気づかないでいる。


ぎゅっと唇を噛んだまま洗い終えて、直ぐにお風呂に入った。



「……っぅく…」


声が聞こえないように顔をお湯に浸ける。

どうにかしたくても変われない雰囲気の日常に助けを求めたくなってしまった。