厚哉には後で了承を得ておこう。
自分だってどんな事故や病気で皆に迷惑を掛けるようになるかわからない。


「いいですよ。2週間だけということなら」


私は厚哉と結婚している訳じゃない。
子供がいる訳でもないし、2週間だけなら問題も何もない。


「助かる。悪いな」


白瀬さんの声は少しだけホッとしたようだった。
散々シゴかれてきた私だけど、こんな形で恩返しができるなら有難いのかもしれない。


「じゃあ」と白瀬さんの声がした頃に厚哉がお風呂場から出てきた。
スウェットのズボンだけを穿いて、上半身は裸にバスタオルを肩掛けしたままの格好で。


「厚哉、またそんな裸で…」


電話を切る前に声をかけてしまい、耳に当てたスマホの奥から「えっ?」という白瀬さんの声が聞こえた。


「あ、いえ、何でもありません。お休みなさい、店長」


慌てて通話終了のボタンを押した。
ヤバかった…と思いながら振り返ると、厚哉はゴシゴシと髪の毛を拭き上げている。


「店長って何?」


職場から電話が掛かることはこれまでも時々あった。
冬場はインフルエンザにかかる人もいて、急な出勤依頼も多かった。


「早朝パートの小杉さんがバイクで事故ったらしくて、明日から2週間ほど早朝出勤してくれるよう頼んできたの。私なら経験してるから流れもわかるだろうからって」

「それで?引き受けたのか?」