聡はちょっと笑った。

「そういう噂は聞かないかな。……でも……そうだな……実際にお墓にお参りすると……たぶん、より、生々しく感じるんじゃないかな。」

「生々しく……」

何だか、怖い気がする……。


息を飲んだあけりに、聡は聞いた。

「小栗判官と照手姫の話は知ってる?……これも大垣だよ。」

「あ……。うん。何となく……。」

本当にざっくりとしか知らないけれど。


聡は特にツッコむことはせず、笑顔でうなずいた。

「大垣ってマイナーだけど歴史的にも文学的にも名所多いんだよ。芭蕉も何度も訪れてるしね。」

「へえ。知らなかった。……お城があるってぐらいしか……。」

あけりの返事に、聡はくしゃっと笑った。

……笑顔が……まぶしかった……。





会館の入口で、徳丸部長が待っていてくれた。

部長は、美しい着物を身につけていた。

素敵!

すっごく似合ってる!

……てか……そっか……私も、今度は着物で来ようかな……。


見とれていると、部長は恥ずかしいらしく、大慌てでチケットを手渡した。

「濱口さん!身体もう大丈夫!?はい!……楽屋情報。今日も、池上宗真さん、怖いぐらい入り込んでるって。すっかり16歳の美少年の顔してるって。面(おもて)付けるのもったいないぐらい、イイらしいわ。」

「……そりゃ楽しみだな……。」

聡は、お世辞ではなく、本当に小躍りしそうな雰囲気だ。

無意識に足取りが弾んでいる。


「そんなに好きなの?『朝長』が?池上宗真さんが?」

あけりが尋ねると、聡は満面の笑みで答えた。

「もちろん両方!好きな演目を好きな演者で観られるって、最高じゃない?……やっぱり墓前でお礼言って来たいな。……マジで、行かない?」

「……う……。とりあえず、同行する後輩に聞いてみる。……てか、聡くんのご両親も?行かれるの?お墓参り。」

「や。たぶん僕1人。」



そんな話をしていると、他のお客さまに対応していた部長が、パッと振り向いた。

「何?源朝長のお墓に行くの?」

「あ……はい。今、まさに誘われてるところです。……部長は、行かれたこと、ありますか?」

そう尋ねると、部長はあけりの両肩をガシッと掴んだ。

「……行く。」

「え……?」

部長は、ズイッと顔を近づけて、もう一度同じ言葉を口にした。

「行く。」

あけりの背中を汗がつたった。