……それは、そうだろう、とは思う。

でも……でも……


「……イイヒトってだけで、恋できる?」

思わず、あけりはそんなことを言ってしまって……慌てて口を押さえた。


これじゃ、薫に恋できないと告白しているようなものだ。

そうじゃない。

確かに、薫さんはイイヒトだし……、大事に想ってくれてるし……、カッコイイし……、優しいし……ほめ言葉は枚挙に暇がない。

逆に、しょーりさんは、素直に褒められる部分がないかもしれない。

注釈付、限定的なほめ言葉しかとても言えない。

……でも……イイヒトじゃなくても……むしろワルイヒトでも……しょーりさんを嫌いになれないし、忘れられない。

だって、好きなんだもん。


「……まあ確かに……男も悪女に翻弄されるし、清純な女の子は不良っぽい男をほっとけない……とか、あるよね。うん。あ、ほら、よく言うよね。イイ男ってのは悪いヒトで、イイヒトは男としてはイマイチ……って。そういうこと?」


聡にそう指摘されて、あけりは……否定したかったけれど、自分に当てはめて考えると、残念ながら否定しきれず……渋々うなずいた。


「悪人だとは思わないけど、しょーりさんはアクの強いヒトね。……でも私、聡くんも、アク強いと思うよ?」

「へ?」

思わず聡は変な声を挙げて……しげしげとあけりを見た。


今のって……どういう意味だ?

……一足飛びに、あけりに好印象を抱いてもらっているのか……とは、さすがに自惚れることはできなかった。

聡は、注意深く言った。

「……僕は、不良じゃないよ?むしろ、くそ真面目な優等生やと思うけど……。」


あけりもまた、首を傾げて、しげしげと聡を見た。

「……そう?まあ、昔はそうだったわね。でも今は、少なくとも、くそ真面目じゃないと思う。校則で禁止されてる自転車通学、それもジャージでピストレーサーで登下校なんて……たぶん、聡くん、自分で思ってるより問題児だと思うけど。」

「……。」


聡は、押し黙って頭を掻いた。

なるほど。

確かに成績がいいので、あまりうるさくは言われないが……校則はダース単位で破っている……ような気がしてきた……。

自覚すると、気恥ずかしくなってきた。