まさか聡がそんな小説を好むとは思ってなかった。

「何か……意外……。」

もっと論理的な推理小説を好むのかと思っていた……。


でも聡は、首を傾げた。

「そう?でも、おもしろいよ。たぶんあけりさんも気に入るんじゃないかな。」

それから、逆に聞き返した。

「……あけりさんは?どんな本がおもしろかった?金田一シリーズしか読んでないんだよね?」

「うん。今のところ。……どれだと思う?」

薫にドン引きされてしまったショックを思い出すと、何となく言い淀んだ。


聡は、んー……と、少し考えてから口を開いた。

「『三つ首塔』とか、好きそう。」


思わず、あけりは唇を噛んだ。


ズバッと当てられてしまった……。

何だか、口惜しい……。


「……図星?」

くすくすと、聡は笑っている。


あけりは口を尖らせた。

「……薫さんに聞いたんでしょ。」

「いや。何も聞いてないよ。」

「じゃあ、何でわかったの?」


しつこく尋ねるあけりに、聡はニッコリほほ笑んだ。


「だって、あけりさん、Mっ気強いし。あーゆートンデモ設定、好きそうやん。……強引な男に翻弄されるのは好きで、優しい男に気を遣われるのは居心地悪いって……。僕、あけりさんが幸せになれるか、マジで心配やわ。」

いけしゃあしゃあとそんなことを言った聡を、あけりはふくれっ面で睨み付けた。

どんなに怒って見せても、その頬も目も赤くなり……あけりは恥じらっていた。


……やば……かわいい……。


聡は、わき上がる愛しさに目をつぶって、さらにあけりをからかった。

「……『鬼火』はね、呆れるぐらい意地を張り合って、足を引っ張り合って、地獄に落ちてくんだよ。取り返しがつかなくなる前に、素直に師匠にほだされたほうが幸せだと思うけどね。」

「もう!訳わかんない!何で、聡くん、そんなに薫さんを勧めるの!」

私のことが好きって言ったのに!……とは、さすがに続けられなかった。

でも、聡にはしっかり伝わっていた。

「だってさ。泉さんより、僕より、……イイヒトだよ、師匠。」

しれっと、聡はそう言った。