薫は、顔をしかめた。

「わかってるわ。……え?聡と同い年ってことは、4月から高校2年生?……17か。ほなあと1年待ったらセーフやな。」

「ちょっと!やめてよね!ただでさえ、ご近所さんの目、厳しいんだから。薫、別に女の子に不自由してないでしょ!」

聡の継母のにほも、慌てて止めた。

2人がかりで止められて、薫は口をつぐんだ。




一方、あけりは帰宅後、母のあいりから質問攻めに遭った。

「じゃあ、聡くんって、誰かと思ったら、あの!東口さんのお子さんなの!?」

「あの、って……何なん?」

母は少し言い淀んでから、口を開いた。

「……よく知らないけど……後妻さんの元彼が、会社のお金を横領して自殺したんですって。」

「はあ?何?それ。……超迷惑な話。」

あけりは、バッサリと斬って捨てた。

「別に気にしなくていいんじゃない?聡くん、新しいお母さんのこと、ちゃんと好きみたいやし、家庭円満そうやったわ。……うちと同じちゃう?はたから見たら複雑な家庭でも、自分らが上手くやってけてたら、それでいいやん。」


母のあいりは、娘の言葉に、それ以上何も言えなくなってしまった。

わりと裕福な普通の家庭に育ったのに、あいりは自分で波瀾万丈の人生を選んでしまった。

自分はいい。

でも、娘のあけりには、ずいぶんと淋しい想いもさせたし……混乱もさせてしまった。

あけりが病気になってしまったのも、幼少期からのストレスのせいかもしれない。

そんな負い目が、あいりには常にある。


「東口さんの聡くんなら、昔から知ってるけど……イイ子やで。」

継父の剛志が、あいりの顔色をうかがいながらそう言った。

あけりは、継父にうなずいた。

「うん。小学生の時も、よく表彰されてはったわ。成績もいいし。……パパさん、ほら、仏参の時に見る『乗れてる』ピストの子ぉ、あれ、聡くんやってん。」


ピストという言葉に、母のあいりはピクリと反応した。


継父は思いも寄らなかったらしい。

「へえ!……わしが知ってる聡くんは、色白のぽっちゃりした子ぉやったで。黒縁の丸い眼鏡かけた、ダサい……いや、その……お母さんが外国人やから、趣味が違うんやろけど。……そうかあ~。」