本心ではない。

でも、弱気になっているのだろう。

ふてくされたような泉の表情を見ていると、薫の胸が詰まり、涙がこみ上げてきた。


「……なんで薫が泣くねん。アホか。」

泉は気の優しすぎる弟子を、照れ隠しに叱って、慌てて話題を変えた。

「女に振られたんけ?」

薫の涙がピタリと止まった。

「なんや。図星か。……アホな女やな。」


泉から見ても、薫はかなりイイ物件だ。

見てくれも、頭もいい。

性格もいいし、金もある。

なのに未だに薫が独身なのは、薫の魅力を世の女どもがわからないからに他ならない……と、本気で思っている。

辛口だが、かなりの親馬鹿レベルで、泉は弟子を評価している。

「俺が探したろか?自分に合う女。」

泉の言う「自分」は二人称で、この場合、薫を指す。


薫は、苦笑した。

「……師匠に持って行かれたことは多々ありますけど、宛がわれたことはいっぺんもないですけど。」

「そうけ。忘れたわ。」

都合の悪いこと、興味のないことは全て忘れてしまう泉は、ケロッとしていた。

「お気持ちだけ、もらいますよ。……いや。俺、今、マジで好きな子、いるんです。……頼むから、その子だけは、横から持ってかないでくださいね?」

薫がそう懇願すると、泉は片頬だけ上げて笑った。


……頼むよ、ホント……。



「で?どんな子なん?」

珍しく、泉がしつこく聞いてくる。

……暇つぶしというよりは……淋しくて、薫をかまいたいのだろう……。

薫は、観念して、泉の枕元に座った。

「……師匠にも内緒って言われてるんで、詳しくは言えへんのですけど……美人の女子高生です。」

「淫行け?」

飄々と、泉が尋ねた。


薫の頬が引きつった。

「……そう言われるので、内緒なんです。……てか、まだ、手ぇ出してません。」

「アホか。」

泉は吐き捨てるようにそう言って、手を挙げようとして……点滴の管に繋がれてることに気づいて、諦めて手を下ろした。

自由が利かない師匠の姿に、薫の目がまた潤んだ。

……不意に、思い出した。

あけりちゃんも……こんな風に、つらい入院生活を送ったんだよな……。

かわいそうに……。