翌日は大事をとって、学校を休んだ。

出血したのはあの一瞬だけだったが、何となく肺のおもはゆさを感じて、じっとしていた。


……肺が……重い……。

しょーりさんは、もっとつらいんだろうな。

手術……無事に終わったのだろうか……。


悶々としてると、15時頃、薫からメッセージが届いた。


<師匠の手術、済んだよ。取り急ぎ、報告まで。来週、競走に行く前に、一旦戻るけど、会いに行っていい?>

……よかった……。

問題なく、終わったんだ……。

じゃあ、あとは、時間薬ね……。


何だか、ホッとしたら、泣けてきた。

ぐすんぐすんと小さく嗚咽していると、また、喉の奥から血の匂いが漂ってきた。

また肺が出血してしまったらしい。


……ダメだわ。

落ち着かなきゃ……。


涙をこすって、あけりはゆるゆると深呼吸をしてから、ベッドにもぐり込んだ。


安静にしてなきゃ。

とにかく、今は安静に……。

止血剤だけじゃなく、抗生物質も飲んどいたほうがいいかな。


目を閉じると、睡魔が襲ってきた。

……身体が、休養を欲しているらしい。

あけりは、そのまま深い眠りに落ちた。





……既読スルー……されてる……。

薫はスマホの画面をじっと見て、あけりからの返信を待っていた。

10分過ぎたころ、まだ麻酔で混沌としているはずの泉が薫を呼んだ。

「薫。喉、乾いた。」

慌てて薫は、泉の口元にストローを挿したタンブラーを差し出した。

泉は、億劫そうにストローを咥えて、少しだけお茶を飲んだ。


「……明日には、尿の管、外してもらえるそうです。」

薫は、泉を励まそうと、看護士の言葉を伝えた。

でも泉は鼻で笑った。

「そっちはどうでもいいねん。……てか、ソレ抜いたら、てめぇでトイレ行かなあかんやんけ。めんどくさー。……肺の管は、まだ抜けへんの?麻酔してても疼くねんけど。」

胸の横から射し込まれている管が、よほど痛いらしい。


師匠らしくない弱音に、薫はやるかたなくうなずいた。

「肺が膨らむまでは、抜けないそうです。……我慢せず、痛み止め、飲んでくださいって。」

薫の言葉に、泉は息を付いて天井を見上げた。


「あーあ。このまま引退したろうかな。」