結果、薫は8着。

ガックリと気落ちしているかと思いきや、薫はレースが続いているかのように急いで敢闘門へと下がった。

早く、師匠の運ばれた病院に駆け付けたい一心なのだろう。


聡はスマホをポケットにしまって、目を閉じた。

……この様子では、師匠は数日間は帰って来ないだろう。

あけりさんを誘うチャンスかな。


そうだ。

確か明日は、下鴨神社でも上賀茂神社でも馬を走らせる神事があったはず。

それとも、どこかでお能をやってるなら、そっちのほうがいいかな。

あけりさんの担任の先生が出演されてる舞台なら、誘いやすいな。


聡は、またスマホを出して、検索を始めた。




京都駅の中央改札口で、聡とあけりは合流した。

ゴールデンウィークで、洛中はどこも混み合っている。

渋滞も、いつも以上にひどいだろう。

2人は、地下鉄で北へと移動してから、タクシーで帰宅した。



道中、聡から泉の状態を聞いたあけりは、多少はホッとしたらしい。

「……とりあえず……再起不能じゃなくてよかった……。」

へ?

そこまで最悪の状態を心配していたのか。

なんてゆーか……あけりさん……思い詰めすぎ?


ぽかーんとしてる聡に、あけりは涙目のまま微笑んだ。

「大丈夫。しょーりさん、強いから。身体は傷ついても、心は折れないから。たぶん、怒り狂って、モノとかヒトに八つ当たりしまくってると思う。」


……重ねがさね……そんなヒトのどこが好きなんだぁ?

あけりさんって……絶対……マゾ……。


「気胸、してないといいんだけど……。とりあえず、中沢さんの連絡待ち。……そういや、師匠、連絡ないな。」

「うん。こっちも。……しょーりさんのことで、気が動転して、頭いっぱいいっぱいなのかな。」

そう言えば……と、聡は気になっていたことを尋ねた。

「泉さんのこと、ずっと名前で呼んでたの?家族だった時も?」

指摘されて、あけりは小さく声を挙げて口を押さえた。

「……名前を出さないように、ずっと封印してたのに……私も気が動転してたみたい。……ん。『お父さん』と呼ばれるの嫌がらはったから。」

あけりの返答に、聡はまた呆れた。


何てヤツだ。

聞けば聞くほど、信じられない……。

シングルマザーと結婚しといて、何だよ、それ。

身勝手過ぎるだろ。