ゴールデンウィークの最終日は、薫とデートのはずだった。

でも、できなかった。



前日の競走で、薫の師匠……つまり2年間だけあけりの継父だった泉勝利が落車した。

嫌な落ちかた、しかも後続の選手に踏まれた。


図書館の閲覧室で、あけりは声を挙げてしまった。

慌ててスマホを握りしめて、外へ飛び出した。


最終日とは言え、今日は薫のほうが泉より遅いレースに出場するため、まだ連絡はとれない。

でも、居ても立ってもいられない。

とにかくメールを打とう!


……。


ダメだわ。

手が震えて、ミスタッチ連続。

とても、呑気なお伺いメールなんて送れない。


どうしよう……。

意識はあったし、頭は大丈夫だと思う。

でも、お腹を押さえて起き上がれないようだったわ。


肋骨、やっちゃった?

それとも……。


心配で、心配でオロオロしていると、あけりのスマホが震えて光った。

画面に表示されているのは、聡の名前だ。


「……聡くん……どうしよう……しょーりさんが……」

涙が邪魔して、それ以上言葉にならなかった。

優しい低い声が耳を伝って、あけりの心に訴えかけてきた。

『あけりさん?落ち着いて?取り乱したまま、師匠に連絡したら、すぐバレちやうからね?……大丈夫?すぐ別ルートで怪我の具合聞くから、ちょっと待っててね。』

「……うん……うん……う……。」


今日はイケズじゃない……。

変なことに妙な感動を覚えながら、あけりはさめざめと泣いた。




あけりの涙がおさまってきた頃、ふたたび聡が電話をくれた。

『あけりさん?とりあえず、泉さん、救急車で病院へ搬送されたって。肋骨が何本か折れてるみたい。たぶん師匠も後で病院に駆けつけるんじゃないかな。』

ああ……やっぱり……。

骨折……。


だばだばと涙と鼻水が流れるのをハンカチで抑えた。

「……肋骨だけならいいけど……肺とか……大丈夫かな……。」

ぐずぐずで、声も呂律もおかしいあけりに、聡の中に愛しさが湧き上がる。

……こんなときに申し訳ないけど……かわいすぎるよ……あけりさん……。