ファン?

俺の?

こんなかわいい子が?

聡の同級生って、高校生だよな?

女子校生が、競輪選手のファンって……マジか?


薫は、確かに人気がある……競輪選手としては、だが。

昨年のファンによる人気投票で選ばれるオールスター戦では、タイトルホルダーでもある師匠の泉勝利を差し置いて、ベスト18にギリギリ滑り込んだ。

26歳の独身で、そこそこイケメン、しかも師匠にタイトルをプレゼントした徹底先行の気持ちのいい走りっぷりは、見る者を興奮させる。

しかし、あくまで狭い世界限定の人気でしかない。

外を歩いていて、競輪ファンのご老人以外から声をかけられることはほとんどない。

「俺?マジで?」

不思議そうに、薫はゴーグルを取った。

派手な練習着やロードレーサーからは想像できない、いかにも人の良さそうな目が露わになった。


「ほんまに、水島さん!……嘘~~~!カッコイイ!」

キャッキャと喜ぶあけりに、薫はただただ驚いて……弟子の聡を見た。

聡もまた、不思議そうに首を傾げていた。




立ち話もナンなので……と、薫があけりを誘った。

ちょうどこれから、聡の家に行くところらしい。

あけりは、インターホンで家の中の母に外出を告げてから、彼らについて行った。


「えーと、聡くん、確かハーフだったよね?シンガポール人の美人のお母さま、お元気?」

歩きながら、あけりは東口聡の情報を思い出してそう尋ねた。

聡は、苦笑した。

「……元気だよ。シンガポールで新しい家族と暮らしてる。……両親、離婚したんだ。2人とも、すぐ再婚したよ。」

う……。

あけりは一瞬動揺したが、開き直ることにした。

「そうなんや。……うちと同じやね。」

「あ。それで。山口さんが濱口さんに変わったの?……そっか。苗字が変わると大変だね。」

あけりは曖昧にうなずいた。


本当は、山口は母のあいりの実家の苗字だ。

山口と濱口の間にもう1つの苗字の時期があったのだが……ややこしいので、あけりはそれ以上は言わなかった。


「……え?じゃあ、あけりちゃんのお父さんが競輪好きなの?」

ロードレーサーですぐ前をゆっくり進む薫が振り向いて、そう尋ねた。