「……あんまり心配するからさ、出待ちしたんだ。しょーりさんは相変わらず強がってたけど、美輪がボロボロに泣くから……なんとなく、イイ感じに歩み寄ってたよ。そう時間かからずに、親子らしくなるんじゃないかな。」

帰ってきた聡が、そう教えてくれた。




「聡くんと美輪ちゃん……似合いそう。」

その夜、薫の腕の中で、あけりはそうつぶやいた。

「……しいっ。それ、言わんときや。意地になったらめんどくさいし。……でも、俺もそう思う。」

薫はそう言って、あけりを抱く腕に力を込めた。

「聡が競輪学校の受験を大学卒業するまで延期したのって、……美輪と出会う運命だったのかもな。」

珍しく運命なんて言葉を使った薫を、あけりは不思議そうに見上げた。

「……薫さん、運命なんて信じるんだ?」

薫が、ふっとほほ笑んだ。

「ほんまや。自然に口から出てたわ。……だってさ……おかしくない?俺とあけりちゃんも、聡と美輪も……みんな、あの師匠を媒介に出逢ってるって。もう、これ、運命だろ。」

……そっか。

確かに、しょーりさんが競輪選手じゃなかったら……私は、自転車に興味持たなかったし、薫さんとも出逢えなかったかもしれない。

聡くんとの再会もなかっただろうし、美輪ちゃんもココに来なかったわ。

「……しょーりさんのおかげ……なんだ。……ふふっ。」

くすくすと笑うあけりがかわいくて、薫は顔中にキスを落とした。

そして、真面目な顔で言った。

「たぶん、師匠、引退を考え始めてると思う。何も言わないけど……そんな気がする。……俺さ、でも、師匠にまだまだがんばってほしいんだよね。……無理させちゃうけど……続けてほしいんだよね。」

「……うん。」

あけりもまた、まじめにうなずいた。


薫はしばし考えて、あけりに言った。

「隼と美輪はこのまま俺が育てるけど……聡は、師匠に預けようと思う。」

「……。」

あけりは反対できなかった。

色々手伝ってくれる聡がそばにいてくれるのは助かるけれど……聡には薫は……生ぬる過ぎる気がしていた。

泉と丁々発止やり合ったほうが、伸びるのは明白だ。


「ずっと前から聡のためにはその方がいい気はしてたけど……師匠の刺激にもなると思う。……あけりは淋しいだろうけど……。」

あけりは、花のようにほほえんだ。

「淋しくない。むしろ、聡くんがしょーりさんをココに連れてきてくれるわ。うちほど設備の整ったジムはないもん。」

薫は、あけりの笑顔に目を細めて……それから、口をとがらせて見せた。

「ありがと。……でもそこは、俺がいれば淋しくない、って言ってほしかったな。」


ふふっ。

薫さんがいるから、私、まだこうして生きていられるの。

息をすることすら、満足にできないのに……薫さんがいれば、私、本当に幸せなの。

大好きよ。

ずっとずっと……大好きよ。

死ぬまで……ううん、死んでも、大好き!