「……根はイイ子なんだろうね。……気になるなら会いに行けばいいのに。……あの子をみてると、しょーりさんから卒業できなかった頃のあけりさんを思い出すよ。」

しみじみとそう言った聡に、あけりは苦笑した。

「うん。私も。美輪ちゃんが既婚者でかなり年上の薫さんに憧れるのも、しょーりさんと上手く関係を築けないのも……身に覚えがありすぎて。」

「だよな。……まあ、しょーりさんとは、ほんとの親子なんだし、そのうち何とかなるとして……師匠のことはあきらめさせんとなあ。」

「……別に、今すぐあきらめる必要もないんじゃない?離婚はしないだろうけど私、いつ死んでもおかしくないし。」

突然ぶっそうなことを言い出したあけりに、聡は驚いた。

「おいおいおい。弱気なこと言ってると、師匠が泣くよ。」

でも、あけりは悲しそうに続けた。

「こればっかりは……気を強く持っても……病気の進行次第だから……。……覚悟の上で勝斗を産んだの。だから、仕方ない。……薫さんには、勝斗をかわいがってくれるヒトと再婚してくれたら、文句はないわ。」

「……あの師匠が、再婚なんかするとは思わないけど。やもめ確定。男やもめには蛆(うじ)がわく、で。あけりさん、ちゃんと長生きしたげんと。」

一生懸命励ましてくれる聡の気持ちが、うれしくて……あけりはほほ笑んだ。

「ありがとう。がんばる。……とりあえず、美輪ちゃんに他に好きなヒトができるといいなあ。」

「……あいつがいるやん。日比野隼。」

素っ気なくそう言った聡だけど……あけりはちょっと笑ってしまった。

……絶対、聡くん、美輪ちゃんのこと気に入ってるし。

「隼(しゅん)くん、同じクラスにつきあってるヒトいるって。美輪ちゃんのことは、ほんとに妹みたいに思ってるんじゃない?」

「あ、そう。」

興味なさそうにそうに無表情でそう言ったけれど、聡の指先が弾んでいた。




2週間後、岡山県の玉野競輪場に泉が出走した。

最終日、聡の運転で日比野と美輪は観戦してきた。

泉のことをギャンブルの駒と揶揄してきた美輪だったが、目の前で展開されるレースの迫力に圧倒されたらしい。

運悪く、泉はこの日、落車した。

美輪は悲鳴をあげて、泣きじゃくった。