自分を見つめる2人の視線に耐えていると、助け船がやって来た。


「え?どうしたの?3人で見つめ合って。勝斗が1人でこっち来てんけど。」

不穏な空気から逃げ出したらしい勝斗を抱っこして、薫が現れた。


「わ!ごめんなさい。」

あけりは薫に近づき、勝斗の頬を撫でた。


寄り添う2人に目を細める泉に、美輪はムッとした。


……幼い私を捨てたくせに……。


「師匠!」

美輪は、薫に向かって言った。

「父です。」

「……は?」

薫は、突然、美輪が何を言い出したのかわからなかった。


「私の父です。」

美輪は泉を一瞥もせず、そう繰り返した。


「……へ?……あ……ああっ!?」

憮然としてる泉を見て、薫はようやく得心した。


似てる!

そうか!

師匠の娘さんだったのか!

「へえ~~~。何だ。言ってくださいよ。師匠。……でも、よかったですねえ。何も言わなくても、ちゃんと、師匠の気持ち、伝わってたんですね。うれしいじゃないですか。親と同じ仕事を選ぶなんて。」


「気持ち?」

美輪にとって、薫の反応は予想外だった。

泉に恥をかかせるつもりで言ったのに……よかった?

怪訝そうに薫を見ていると、背後から泉が言った。

「……いつもながら、薫の脳天気には毒気を抜かれるわ。……美輪も、しょーもない意地張ってんと、本気やったら、しっかりやれよ。ほな、今日は帰るわ。」


「え?師匠、もう帰っちゃうんですか?美輪だけじゃなくて、もう1人居るんですよ。紹介しますから。飯、喰ってってくださいよ。ねえ、師匠~~~。」

薫が引き留めるのを完全に無視して、泉は帰って行ってしまった。


……逃げちゃった。

あけりも、美輪も、拍子抜けしてしまった。


でも、薫は……くすくすと笑った・

「バツ悪いんだな、あれ。……師匠の弱点、見つけた気分。そっかあ。君がねえ。……師匠、君のことが大事過ぎて、再婚相手の連れ子だったあけりとコミュニケーション取れなかったんだってさ。」

「……はあ?」

聞き返した美輪の声は、ドスが利いていた。


あけりもまた、目をぱちくりさせた。