どこまでも憎まれ口をたたく三輪に、あけりはハラハラする。

しょーりさん、怒っちゃう……。


でも泉は、むっつりしてるだけ。


どうしよう……。

途方に暮れて突っ立っていたけれど、貧血っぽくなってきたので、あけりはその場でへなへなとしゃがみ込んだ。


「おい!大丈夫け?顔色、悪いで。」

慌てて泉が、あけりの腕を引いた。


「あ……はい。大丈夫です。……座れば。」

そう言って、あけりはしばらくしゃがんでから、美輪を見上げた。



美輪は初めて見たあけりの青い顔に、動揺していた。

鼻にチューブをさして、家の中でも酸素のカートを引っ張ってはいるものの、こんなわずかな時間、立っていることぐらいで見るからに体調を悪くするなんて……やばいんじゃないの?

まだ若いのに、お手伝いさんを雇って、のほほーんと座って何もしてないあけりのことを、美輪は小憎たらしく感じた。

自分と母から、父を奪った女の娘。

それだけも恨み骨髄なのに、あろうことか、美輪の憧れの水島薫と結婚するなんて!

許せない。

いつか……奪ってやる……。

本気でそんな謀(はかりごと)を胸に秘めていたのだが……その前に、このヒト、死んじゃうんじゃないの?


あけりは、美輪の葛藤は敢えて考えないようにして、穏やかに言った。

「美輪ちゃん。ごめんなさい。驚かせたみたい。……私、こんな身体だから、これからも、ろくなお世話もしてあげられないけれど……ううん、それどころか、迷惑かけちゃうかもだけど、心から応援するから、がんばって。しょーりさんの娘さんなら、それだけで素質は充分でしょうし。……でも……これだけは覚えておいて。」

語尾のトーンが少し落ちたことに気づいて、美輪は身構えた。

あけりは、敢えてゆっくり続けた。

「美輪ちゃんが水島に師事して本気で競輪選手を目指すなら、泉さんには礼節を尽くしてください。水島の尊敬する師匠に失礼な言葉や態度は、謹んでください。」


美輪は、両手をぎゅっと握って……しばらく立ち尽くしていた。

うつむきたいけれど……この場から離れたいけれど……逃げ出すのは嫌だった。