泉は、憮然として美輪を見ていた。


「……美輪ちゃん……ご挨拶して?一応、師匠の師匠に当たるかただから。……知ってるでしょ?タイトルホルダーの泉勝利(かつとし)さん。」

不穏な空気をビシビシと感じながらも、あけりはその場を取り持とうとした。


しかし、美輪は、挨拶どころか……せせら笑った。


「美輪ちゃん?」

驚くあけりをよそに、泉が顔をしかめて口を開いた。

「……何でお前がココにいるねん。薫の弟子って何やねん。」


は?

しょーりさん?

え?

えーと……

「お知り合い?……でしたか?」

あけりがそう尋ねると、泉は苦々しく言った。

「娘や。」

「え!?ええっ!?」

あけりは思わず、泉と美輪の顔を何度も見較べた。

「……親子……?……ほんとの……?」


そうだ。

確かに、似ている。

美輪は綺麗な子だけれど、その目だけはギラギラと鋭くて……

「そっか……聡くんも、似てるって言ってたわ……。」

あけりのつぶやきに、泉はふっと頬をゆるめた。

「聡か。ほんま、めざとい奴や。」


……やっぱり、しょーりさんって……聡くんのこと、気に入ってるみたい……。

自分に似てるところがあるって思ってるんだろうなあ。

私も、ドキッとすることあるし……。


いや、それより!

美輪ちゃんが、しょーりさんの娘さん?

それって……ママと結婚するために捨てたという妻子の「子」のほうが、美輪ちゃんってことよね。

うわあ……。

何か……すごいご縁というか……。

ああ、そっか。

美輪ちゃん、知ってるんだ。

私が、しょーりさんの再婚相手の娘だって。

それで、何となく敵意を感じたのか……。

そっか……。

それは、仕方ないなあ。



あけりは、気を取り直して言った。

「じゃあ、美輪ちゃん、しょーりさんの競走を見て、競輪に憧れたのね。」


でも、美輪は鼻で笑った。


代わりに、泉が答えた。

「……競輪選手は、プロスポーツ選手やなくてギャンブルの駒やゆーてたクソガキが、憧れるわけないやろ。……帰れ帰れ。ここは遊び場ちゃうわ。」

「確かに、あんたの八百長走りには憧れたことないけど、水島薫はほんまもんでしょ。めっちゃかっこいいわ。……なんで、こんな最低男に師事したんやろ。」