隼(しゅん)は、高校の自転車部に所属していたが、部員減少でクラブが廃部になってしまったそうだ。

薫が奈良に戻ることを隼に伝えたところ、すぐに弟子入り志願して来た。

昨日やっと初めてやって来たところなのだが……隼が一緒につれてきたのが、美輪だった。



「近所の子ぉって……。大丈夫なん?親御さんも、オッケーしてはるん?」

聡は、柄でもない、常識的なことを聞いてきた。

「ん。菓子折持たせてくださったし、反対はしてらっしゃらないみたい。……そのうち、お逢いする機会もあるんじゃないかしら。」

「……ふぅん。」

「……聡くん、兄弟子(あにでし)になるわけだから、2人の面倒も見てあげてね。……勝斗(まさと)と同じように。」


今も、昼寝中の勝斗の額に汗で張り付いた髪を手で梳いて世話を焼く聡に、あけりはそうお願いした。


聡は目をぱちくりさせて、ちょっと照れくさそうに口を尖らせていた。





隼はともかく、美輪はまったくの素人だった。

「師匠~。わかんないです~~~~。これ、どうするんですかぁ?」

美輪は、薫につきまとって、手取り足取り教えを請うた。

まだ中学生なのに、媚びるように甘える美輪に、聡はイチイチ目くじらを立て、あけりは妙に感心した。

女子校育ちのあけりには、美輪の態度は新鮮だった。


「美輪ちゃん。師匠をわずらわせるレベルじゃないから。」

隼が、空気を読んで指導しようとするけれど、美輪のテンションはわかりやすくダウンしていた。



「……お前……甘やかしすぎ。あいつのためにならんで。」

見かねた聡が隼にそう言ってみたけれど

「そうですか?昔からこんな感じで、特に厳しくも甘やかしてもいないですよ。」

と、ケロッとしていた。


聞けば、美輪は母子家庭で育ったため、小さな頃から鍵っ子で、隼の母親が家に招き入れて世話を焼いていたらしい。

「血は繋がってないけれど、妹みたいなもんですから。叱る時はちゃんと叱ってますよ。」

隼の弁明に、聡は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。





「聡くん、美輪ちゃんのこと、気になるみたい……。」

夜、ようやく2人きりになってから、あけりは薫にそう言ってみた。