こっちに引っ越してから、だいぶ調子がいい……気がする。

実際のところ、空気がいいだけで、あけりはかなり楽に暮らせている。

でも、相変わらず酸素ボンベを片時もはずせない。

だから、家事はほとんど何もできない。

小さな勝斗の後追いだけで力尽き、どこででも寝落ちしてしまうぐらいに体力がなくなってしまっている。


そんなあけりを気遣って……薫は性欲を必要最低限に抑える努力をしている。

主婦としては、はなっから失格だけど、妻としても全然ダメだ……。

あけりは、薫に対し、必要以上に負い目を抱いていた。


そんな時、突如現れた元気な女の子は、あけりにとってキラキラと輝いて見えた。




「……あの子見てると、昔のあけりさんを思い出すってゆーか……。」

苦々しげに、聡が指摘した。


あけりは一瞬キョトンとして、それから首を傾げてから、自嘲的に笑った。

「ん~?そう?……私のほうが絶望的だったんじゃない?単に既婚者じゃなくて、戸籍上の父親だったんだから。」

「……あ……。」

聡は、不意に気づいた。


そうだ。

しょーりさんだ。

「あの子、あけりさんだけじゃなくて、しょーりさんにも似てへん?やたら挑戦的な目ぇとか。」

言葉にすると、ますます、似てる部分が大きくなってきた。


あけりはそう指摘されて、ちょっと考えた。

「……確かに……あの目……ドキッとするかも……」

「あけりさん!?何言ってんの?今さら?」

聡にツッコまれて、慌ててあけりは手をひらひらと振った。

「あはは。だって、ほら、三つ子の魂百まで、って言うじゃない。もう、これは、条件反射?……そっか。美輪ちゃん、しょーりさんっぽいかあ。……ふふっ。」

「もう。……あれだけあからさまに敵意持たれてるのに……。……ところで、あの子、誰の紹介で来たの?」

あけりの鷹揚さに肩をすくめて、聡は尋ねた。


「紹介って言うか……日比野くんが連れて来たの。近所の子なんだって。」


そう。

何となく、美輪が華やかで目立つが、もともとは、ずいぶんと前から薫に弟子入りを打診していたのは日比野隼という高校生だった。