「わかりました。よろしくお願いします。」

あけりはそう言えた自分に驚いた。


少し前までなら、他のヒトから肺をもらってまで生きながらえなくていい、と思っていた。

でも、薫のために、そして勝斗のために……1分1秒でも、がんばりたい。





「薫さん。私達のお家に、住みたい。」

あけりは、新たな決意をした。

折からのスギ花粉の飛来と中国から黄砂と共に飛んでくるPM2.5のせいで、あけりは喘息や肺出血を繰り返していた。


「え……でも……いいの?」

薫は、あけりの身体を心配するとともに、あけりの残り1年分の高校生活からまた離れてしまうことを懸念した。


あけりは、苦笑した。

「うん。こんな身体じゃ、学校に戻るとか無理でしょ。新居は山の中だから空気も綺麗だし……、」


時間を、大切に使いたい。

薫と、勝斗のために、出来うる限りのことをしてあげたい。

あけりの決意は固かった。





新しい日々が始まった。

薫は練習バンクを奈良に戻した。

自宅のジムで筋トレし、ローラーを踏む。

予想通り、泉が我が物顔で入り浸った。

そして、大学2回生になった聡もまた、まるで別宅のように居着いた。

聡は、ほとんど動けないあけりのために、家事も助けてくれた。

一応、家事を代行してくれるヒトに日参してもらってはいたが、聡の存在は大きかった。



道場らしくなってくると、薫のもとに新たな弟子がやってきた。

1人は高校生男子だが、もう1人は……何と、中学生の女の子だった。

「山田美輪です。」

いかにも勝ち気そうな美少女だ。

女子の競輪選手を目指したいらしい。


一目で、わかった。

美輪は薫に恋心を抱いていた……。


「なあ、あれ。やばいんちゃう?」

美輪のあからさまな薫への猛アピールを半ば呆れながらも、聡はあけりに注意喚起した。

「……ん。そうね。……でも……好きになるな、って言っても無駄でしょ。」

あけりは苦笑して肩をすくめた。