「ありがとう。すごく、幸せ。私を、産んでくれて、ありがとう。しょーりさんと結婚してくれて、ありがとう。薫さんと結婚させてくれて、ありがとう。勝斗くんを産ませてくれて、ありがとう。」


あいりの涙腺が決壊した。

子供のようにボロボロと盛大に泣く母の手を、あけりは強く握った。


……びっくりするぐらい握力も落ちてしまっていたけれど……。







1ヶ月後、我が子を置いて、あけりだけ先に退院した。

再びあけりは、効果も副作用も強い新薬の服用を開始した。

以前よりもはるかに体力が落ち、症状が進んだ状態でのスタートだった。

本当は毎日、病院に勝斗を見に行きたい……。

でも今のあけりにはとてもできない。

新薬の免疫抑制効果はハンパない強さで、あけりは病院に行く度に何らかの病気をもらってしまったようだ。

風邪、肺炎、発熱、下痢、嘔吐、また肺炎……と、忙しくいろんな症状を繰り返した。

2ヶ月後、ようやく勝斗が退院した。

新薬のせいで母乳は1ヶ月しかあげられなかったけれど、勝斗はすくすく育ち、今や普通の赤ちゃんと同じサイズだ。

よく泣き、よくミルクを飲む元気さに、あけりはホッとした。







穏やかに、優しい日々が過ぎていく……。

勝斗は毎日成長するのに、あけりは全く元気にならない。

それどころか、日に日に萎れていくような気がして……薫は、あけりが心配でならない。


定期検診の頻度が増えた。

あけりの病気は飛躍的に進んでしまっている。

腹部には小さな腫瘍がいくつもでき、肺の細胞は破壊されていく……。

24時間酸素を吸いながら、あけりは新薬の効果が出るのをじっと待った。






「肺移植の登録リストに載せましょう。」

主治医がそう言い出したのは、翌年春。

……結局、あけりは、1年で学校に戻ることができなかった……。

「当面、インアクティブで。いよいよやばいとなったらアクティブ群リストに登録します。」


あけりは、苦々しい気持ちでいっぱいだった。

薬が効かないのか、多少は効いていたとしても、それ以上にあけりの病気の進行が早いのか……それは、わからない。

……いや。

こうなることは、わかっていたし、覚悟もしていた。

最初から、妊娠も出産も、病気の進行を早める可能性が高いと言われていたのだ。

それでも勝斗を産むことを選んだのだ。

仕方ない……。