「……物好きですね。じゃじゃ馬馴らし?」

とても素直とは言えないが、拒絶はしていない。



薫はあけりの言葉をすべて好意的に上位変換することにした。

「たぶん、つらい恋を抱えてる時間が長かった分……あけりちゃんは臆病になってるんやろう。心を開いてくれるまで、待つよ。」

……じゃじゃ馬馴らしというか……前の飼い主に捨てられて人間不信になっている臆病で凶暴な野良猫か野良犬を拾う気分かな。


あけりは少し小首をかしげるように、うなずくと、重い口を開いた。

「初恋が終わらないんです。もう何年も逢ってもいないし、奥さんもいはるのに。私には全く関わりのないヒトなのに……忘れられなくて……。」

「……うん。」

神妙に聞いてるように重々しく相槌を打ちながらも、薫は心の中で小躍りし始めた。


それって、ただの憧れじゃん。

芸能人に熱上げてるようなもんじゃん。

よしゃーっ!



あけりは、一言一言を考えながら、ゆっくりと言った。

「水島さんと偶然お会いできたことに、私もご縁を感じました。でも、水島さんのご期待に添える自信はありません。……いずれ、ガッカリされたり、軽蔑されるのが……怖いです。」


薫はぶるぶると頭を横に振って否定した。

「そんなふうに考えなくていいから!……俺が、あけりちゃんを笑顔にしてあげたいだけなんやから。……むしろ、初恋のおっさんを忘れるために、俺を利用すればいいから!」

「……おっさん……。」

絶句するあけりに、薫は慌てて言った。

「おっさんやろ!たぶんあけりちゃん、昔のイメージを後生大事に美化してんだよ。……いや、おっさんのことはどうでもいいよ。あけりちゃんも、おっさんのことなんかどうでもよくなるように、俺、努力するから。」

「……ありがとうございます。」

薫の気迫に、あけりは思わずそう謝辞を口にしていた。


「え……それって……つまり……俺と付き合ってくれるってこと?」



う……。

あけりは一瞬つまって……それから、不承不承うなずきながらも、条件を付け加えた。


「お友達から、お願いします。……でも、誰にも言わないでください。私、まだこれから高校2年生になるところなので。……ハッキリ言って犯罪ですからね?イイですか?ご家族にも、お友達にも、師匠にも弟子にも、内緒にしてくださいね!」


薫は、満面の笑みを浮かべて、何度も大きくうなずいた。

ちゃんとわかってるのかしら……と、あけりが不安になるぐらい、薫は舞い上がっていた。