夜中に目覚めたあけりは、付き添っていた母のあいりから、子供が生まれたことを聞いた。

「明日、会いに行けるから。」

あいりにそう言われて、あけりは実感がないものの……本当に我が子が生きていること、そして自分自身もまた生きていることを不思議に思った。


……嘘みたい……。


そう言いたかったけれど、酸素のマスクが邪魔で……苦しくて……あけりは何も言えないまま、再び目を閉じた。


酷く身体が重い。

腕も上げられないし、まぶたも落ちてしまう。

……まるで、自分の身体じゃないみたい。

少し……眠い……。


そのままあけりは昏々と寝入った。





「あけり……。」

大好きな薫の声が呼んでいる……。

あけりが目を開けると、薫が涙目で覗き込んでいた。


「あ……。いた……。」

そうつぶやいたけれど、やっぱりマスクが邪魔で……。


「……無理しなくていいよ。今はゆっくり寝てて。……赤ちゃん、ちっちゃくてびっくりしたよ。めちゃめちゃかわいいのな。ウーパールーパーみたいだった。」

薫はそう言って、あけりの頬や髪を優しく撫でてた。


……ウーパールーパー?

あけりの顔が不安そうに歪んだ。


「ひどいな、お前。……大丈夫や。あけり。心配せんでも、ちっちゃくて真っ赤なだけで五体満足や。パンダの赤ちゃんみたいな感じや。」

フォローになってるんだかなってないんだか、よくわからない言葉で泉がそう言った。



あけりはホッとして、うんうんと、うなずいて見せた。



そして、そろそろと右手を上げて……泉のほうに差し出した。

泉は、あけりの手をそっと掴むと、そのまま薫のほうへと突き出した。

「ほら。手ぇ握ったれ。」


ほぼ無意識に泉の手を求めたあけりを、泉は何の迷いもためらいもなく、薫に託した。

……。

あけりは、泉をちょっと睨んでから、ほうっと息をついた。





「優勝したよ。……師匠が、俺を守ってくれた。」

薫がそう報告すると、泉はふんと鼻を鳴らした。

「おかげで俺は失格や。まあ、ええけど。」

「……や。よくないです。……それで、夕べ、2人で考えたんやけど。子供の名前。師匠から1字もらおうと思うんやけど……。」

あけりは薫の言葉が終わるまでに、何度もコクコクとうなずいた。