夢の家をバリアフリーにして、間口を広く取ってあるのは、あけりが酸素ボンベをひっぱって生活した経験からだけど……車椅子生活も視野に入れて正解だったかもしれない。

情けないけれど、あけりはどんどん弱気になっていた。





6月に、阿弥は吉永家に嫁いだ。

長時間に及ぶ披露宴は避けて、身内だけが参列する神社での挙式にのみ、あけりと薫は参列した。

こんな時にも酸素をはずせず、昇殿までは車椅子だった。


まだあけりのお腹はあまり膨らんでいなかったけれど、昨夏あけりが同じ社殿で挙式したときとはまるで別人だ。

すっかり痩せ細り、萎れてしまったようなあけりを見て……吉永拓也はこっそり落涙した。


何の因果でこんな……。

……全て、俺のせいなのだろうか……。


見当違いも甚だしいが、吉永は因果応報なのかと己を苛んだ。

それは奇しくも、ずっとあいりが抱いているあけりへの負い目と同じ想いだった。


両親の思惑とは別に、あけりは身体こそつらかったが、気持ちは幸せだった。

競走と練習の時以外は、薫がずっとそばにいてくれる……。

お腹には、2人の子供もいる。

双方の親も、事情を知る数少ない友人達も、そしてずっと音信不通だった泉も、あけりを愛してくれている。


「やっぱり、旧家って大変そう……。でも阿弥先輩なら、大丈夫よね。幸せそうだった……。よかったぁ。」

幸せそうなあけりの笑顔に、薫は多少無理させても、参列してよかった……と、しみじみ思った。




しかし、その夜、あけりは高熱を出した。

久しぶりの外出で、無理していたのだろうか。

その夜、薫はベッドサイドにずっと付き添って、苦しそうな息のあけりを見つめていた。

……ほんの少し前、「多少無理させても」なんて、安直に思ったことを激しく後悔していた。

あけりにとっては「多少」じゃない。

わずかな「無理」も、命に関わるのだ。


お腹の子供には悪いが、たとえ子供が危機に陥っても……あけりを救いたい。

あけりに生きてほしい。

薫は夜通し、祈り、泣いた……。



ずっとエアコンが効いた病院にも夏が通り過ぎた。

お腹の子は、男の子だった。