いろんなところに住んでみたけれど、家が大きいから幸せというわけじゃない。

たぶん、薫さんと一緒なら……どんなにボロいウサギ小屋でも、カプセルホテルでも、幸せだってわかってるから。

でも、薫があけりに新築を委ね、考えさせることで、今後の生活に希望を抱かせようとしているのだろう。

あけりには薫の気持ちがありがたくて、尊くて……幸せだった。




結局、高校3年生は始業式しか行けずに休学した。

もちろん担任には、出産のための入院と報告したが、結婚同様他の生徒には内緒にすることになった。


ただ、せっかく仲良くしてくれている嘉暎子と、卒業された徳丸元部長には報告した。

すぐに2人はお見舞いに来てくれた。

「……6月に結婚することになったんだけど……濱口さん……じゃない、あけりさんの出席って……無理?もちろん、薫さんとご一緒に……。」

「わ!おめでとうございます。阿弥先輩。……うかがいたいです。主治医に相談してみますね。」

徳丸元部長は、あけりの従兄にあたる吉永晃之さんと結婚する。

親戚としてのつきあいは今後もするつもりはないけれど……これからも先輩後輩として……友人として、仲良くできるはずだ。

「うん。是非来てほしい!……でも、もちろん、無理はしないでね。ちょっとでも来てくれたら、すごくうれしい。それに、いずれは、吉永の家にも、遊びに来てほしいし。」

「……そうですね。」

以前より抵抗感なく、あけりはうなずいた。


これも、すべて、薫のおかげ。

薫が、挙式の時に、わざわざ吉永を頼ったことで、新たに良好な関係が結べたのだと思う。

あけりは、薬指の指輪に触れ、それからお腹にそっと手を宛てた。




月日は、意外とあっという間に過ぎていった。

何もすることのない入院生活は暇なはずなのに、あけりは毎日勉強し、読書を楽しみ、新しい夢の家の進捗状況に気を配り、お腹の子供との時間に想いを馳せた。

運動はまったくさせてもらえないので、筋力はさらに衰え、呼吸機能も低下した。

治療薬も飲めないので、持病もどんどん進行する。

その速度は、妊娠してから、目に見えて加速している。


……本当に……命がけのお産になりそう。

無事に出産できたとしても、私、寝たきりになってしまうのかもしれない。