去勢……まではしなくても、パイプカットでいいのでは……。

そうツッコもうとして……やめた。

あけりは、薫のくれる快楽をすっかり享受していることを自覚して、恥ずかしくなった。


「実際のとこ、もし、妊娠してても、無理せんときや。リスクがあるんやったら絶対産むな。……お前のほうが大事やしな。」

まさか泉にそんなことを言ってもらえるとは思わなくて、あけりは涙目で泉を見つめた。

「……ありがとうございます。まだわかりませんけど……医師とも相談して、ちゃんと考えます。後悔しないように。……ね?」

あけりは笑顔を作って、薫を見た。


薫はまだ頭が整理できてないらしく、口元は笑っているのに、瞳がオロオロしていた。



……これまで何も言われてなかったけど……やっぱり、薫さん、本当は子供、欲しかったんだ……。

まあ、そりゃ、そうよね。

私も、欲しいもん。


……頑張って……みようかな……。


あけりは無意識にお腹に手を宛てがい続けていた。


泉は、あけりがとっくに……産む決意をしてしまっていることを見てとって……こっそりため息をついた。


まったく……こいつは……俺の言うこと、聞きよらへん、困ったヤツや。



あけりがトイレに立った隙に、泉は薫に真顔で言った。

「ガキが欲しいんやったら応援したったらええけどな。出産と同時じゃなくても、出産が原因であけりが死ぬかもしれんて、覚悟できるんけ?お前。……あけりが死んでも、かまへんのけ?」

「……そんな極論を……。」

ともすれば浮かれそうな心に、冷水を浴びせられて、薫は反論しようとした。

が、泉は冷たく言った。

「アホか。ただでさえ、お産は命がけのに、あけりは病気や。……せっかく酸素吸わんでよくなったのに……かわいそうに……。」


泉は本気で、あけりを心配している。

それがよくわかるので、薫は何も言えなくなってしまった。

確かに……まだ見ぬ子供と、あけりとどちらが大事かと言われたら……今は、あけりだ。

でも……。

「彼女、産む気になってますよね……。」

薫がそうつぶやくと、泉は顔をしかめた。

「……ああ。頑固なヤツやからな。」

「ええ。……頑固ですね。そんなところは師匠によく似てますよ。」

薫の言葉に、泉はまんざらでもない顔になった。