「あけり?気持ち悪い?」

急に固まったあけりを心配して、薫が声をかけた。


ハッとして、あけりは顔を上げた。

「ん……。ごめんなさい、ちょっとだけ……。」


まだ確信はない。

新薬の影響で、ずっと生理不順だった。

単に体調不良で遅れているだけかもしれない。


……でも……。


あけりは、そっと自分の下腹部に手を宛てた。


子宮……このへんかな。

……居るの?

薫さんの子供?

本当に?

ここに……居るの?



「つわり?……お前、もしかして……デキたんけ?」

目聡く、泉があけりにそう尋ねた。


「え!?ええっ!?えっ!」

薫が、何度も声をあげた。


「うるさいわ。やることやったら、デキて当たり前やろ。……てか薫、お前……呼吸もままならんあけりに、何、やってんねん。……鬼畜やな。もっと大事にしてやれや。あけり、死ぬぞ。」

冗談でもからかうわけでもなく、けっこう本気で泉は薫を一喝した。


でも薫の耳には届いていない。

薫は、ただただパニクっていた。


愛妻が自分の子供を身ごもってくれた。

こんなにうれしいことはない。

でも、あけりは難病だ。

今回、新薬が効いて、症状が緩解しただけで、根治したわけではない。

妊娠と出産が病気を重篤化させる可能性が高いことには、何ら変わりはないはずだ。


どうしよう……。

妊娠はうれしいけれど……ダメだ……。

せっかくあけりがちょっと元気になったのに……またつらい想いをさせたくない……。

絶対、ダメだ……。




「あの……しょーりさん、調べてみないと、まだ、判りませんので、薫さんをイジメんといてください。」

あけりが控え目に泉をたしなめた。


泉は、一瞬怯んで、それから子供のように、ふんとそっぽを向いてから、ボソッとつぶやいた。

「ガキは作るなっちゅうたのに……。猿みたいに盛りやがって。……去勢しとけ。」

「師匠!」

悲鳴のように薫は泉の名前を叫んだ。