それからおもむろに口を開いた。

「私も……子供みたいに……ごめんなさい。……ううん、子供なんです、私。身長は伸びても中身は子供のまま。……だから……、水島さん、私と一緒に居ても、つまんないですよ。すぐ飽きると思います。」


……牽制された……。

薫は敢えてスルーした。

「かわいいよ。怒ってても、拗ねてても、かわいい。……泣かれたら、たぶんつらいやろうから全力で慰めるけど。怒りは包み隠さず出してくれたらいいし。それぐらいの包容力はあるつもりやから。……うちの師匠の横暴も平気やもん、俺。」


すると、あけりの白い頬が紅潮した。

綺麗な瞳がゆらゆらと揺れて、涙がほろりとこぼれた。


着物が濡れる!

咄嗟に薫はあけりを抱きしめた。


……帯、邪魔っ!

着物も、色合いは柔らかいが、紬なのでけっこうごわごわとかたくて……正直、あまり抱き心地はよくない。

「ごめん!ハンカチ持ってなかった!ティッシュも車の中!……このシャツ、あんまり水、吸わんし……肌触り悪いけど、ジャケットで涙拭いてくれる?鼻かんでくれてもいいわ!」


不意うちで抱きしめられたことにはびっくりしたし、抵抗も感じるけれど……薫の言葉がおかしくて、あけりは涙が引っ込むまでおとなしく身を固めていた。


薫には、あけりの涙の意味はよくわからなかった。

いや、涙の理由が何なのかなんて、どうでもよくなっていた。

あけりが自分の腕の中に居る。

嫌がる素ぶりも、逃げる様子もない。

その事実が、薫を調子づかせた。


「すぐに結論出さんでもさ、俺にもチャンスくれへんかな?……あけりちゃんの心の中にいる人を無理に消す必要もないし。いつか、自然に、俺のほうが大きい存在になれたらラッキーってことで。……もちろん、あけりちゃんの嫌がることは絶対しいひん!って約束するから。」

……嫌がらないようなら、どんどん増長するけど。

とりあえず、今日はこうして、この腕の中に捕まえることができた。

これを基準に考えたら……まあ、そのうち何とかなるだろう。

薫は楽観的に考えていた。



しばらくして、すんっと小さく鼻をすする音がして……もぞもぞと、あけりが動き始めた。

そっと腕の力を抜き、あけりを解放した。

あけりはもう泣いていなかった。

頬だけでなく、鼻の頭と、まぶた、そして目が赤い……。


薫の胸が甘く疼いた。

忘れていたときめきだった。