あけりは小さくなったけれど、薫は一回り大きくなった。

食生活が変わり、練習に打ち込める環境になったからだろうか……成績も上がり、大きな開催でも決勝戦にコンスタントに乗っている。

本気で、タイトルに手が届きそうなところまで来ている。


あとは……運と、何としても勝つという強い気持ち……。

泉にはあって薫には決定的にない、ハングリー精神。


「師匠も、めっちゃ喜ぶわ。今度、一緒にご飯行こうか?驚かそう。」

薫の提案に、あけりは満面の笑みで大きくうなずいた。




始業式に、あけりが登校すると、幾人もが声をかけてくれた。

ただでさえ美人で目につくあけりが、校内でずっと酸素ボンベをひっぱって歩いていたのは、やはり相当に目立ったらしい。



……これで既婚者だと公表したら……びっくりされるんだろうなあ。

でも、よかったぁ。

あけり先輩、死んじゃったらどうしようかと思った。

よかった……本当に、よかった……。

2年生になった嘉暎子は、遠巻きにあけりを見つけて、ちょっと涙ぐんだ。




あけりの結婚は、学校では伏せている。

一応、徳丸には報告したし、学内で話は通ってはいるものの、箝口令が敷かれている状態だ。

症状が進んでしまったあけりの個人的な状況と普段の成績を鑑みると、学校側は結婚を反対することも、何らかのペナルティを科すこともできないようだった。

結婚相手が競輪選手だということも、多少は関係しているかもしれない。


……でも披露宴をしてしまったら……どこからともなくバレるんじゃないかしら。

薫さんと同郷の生徒も、もちろんいるはずだ。

市長の息子の結婚相手が現役女子高生というのは、話題になりそうだ。

「しかも、美人だし。」

と、たぶんあけりよりも華やか系の美人の嘉暎子は、もっともらしく独りごちた。




始業式の後、薫が迎えに来てくれた。

そのまま、泉と待ち合わせている店へと向かった。

「え……治ったんけ!?」

ニコニコと現れたあけりに、泉は目を見張った。

「完治というわけではありませんが、以前より症状が緩和したみたいです。新しいお薬が効いてるみたいで。」

あけりはうれしそうにそう報告した。

隣で薫もすっかりデレている。