確かに美しい。

でも……。

「昇殿しはりますか?」

「え?……いや、そこまでは。普通に手ぇ合わせるだけでいいよ。」

薫は、何の気なしにそう言った。

……普通の神社のように、本殿のすぐ前までは誰でも気軽に行けるものだと勘違いしていた。

しかし、違った。


「え?ここまで?この先は行けへんの?気位高いなあ。」

思わずそうこぼした薫に、あけりは苦笑した。

「神様に聞こえてますよ。……まあ、今日のところは、ここでご挨拶だけさせてもらいましょ。」

メインは桜だ。




「うち、この神社の氏子らしくて、葵祭の案内とか毎年来るんやけど、俺は来たことなかったわ。……斡旋なかったら、来月、観に来てみようかな。……一緒にどう?」

あけりは、薫の唐突な誘いよりも、奈良所属の薫が京都の神社の氏子だということに驚いた。

「氏子って、神社の近辺に住んでる人だけかと思ってました。……ご実家、このあたりですか?」

「いや。実家は京都府は京都府やけど、めっちゃ南。京都市より奈良市のほうが近いわ。……母方の祖母がこっち出身で崇敬してた名残。……神さんとのご縁を切るのも験(げん)が悪いやろ?」

あけりはこっくりうなずいて、それから返事した。

「来たいけど……たしか今年は平日ですね。中間テストも近い頃やし、サボれへんわ。……すみません。」

「あー……。じゃあ、来年!」

すぐにそう切り返した薫に、あけりはちょっと笑ってしまった。

「来年の話なんかしたら、鬼が笑うわ。その頃、水島さんにはお似合いの彼女ができてはるかもしれへんし……約束はしいひんほうがいいんちゃいますか?」


薫の顔が曇った。

「……それが、あけりちゃんの、返事?」


察しのいい薫に、あけりはほほ笑んだ。

「水島さんて、やっぱり、他人の機微がわかる優しいかたですねえ。……そんなつもりはなかったんですけど……そうですねえ……。」


どちらともとれるあけりの曖昧な返事に、薫は困惑した。

……京都の女らしく、否定はハッキリと言葉にしないだけで……実際は既にお断りされてるのだろうか。


「ほら、あれですわ。私の好きな桜。」

あけりが指さしたのは、白い大きな枝垂れ桜だった。