そして、その時々で、好意を抱いてくれる女の子とつきあってきた。

たまには、流れで複数の女の子と同時に関係することもあったが、対外的には常に1人。


……聡の継母のにほとは、幼なじみで、長らく男女関係もあったが、結局、一度もちゃんとした恋人にならなかった。

その理由は、お互いの彼氏彼女の切れ目がうまく噛み合わなかった……ただ、それだけだ。

しかし、それこそが「ご縁」なのだろう。


好きだという感情だけで、人生はままならない。

逆に、そこまで好きだという気持ちが強くなくとも、縁のあるヒトとは必ず……そういうことになるものだ。



「上手く言えないけど、あけりちゃんに惹かれてる。どうしようもなく。君のことをもっと知りたいし、君の笑顔が見たい。……君に、応援していてほしい。」

薫は、「好き」だとも「愛してる」とも言わなかった。

実際、まだ2度しか逢ってない、10も歳下の女の子に惚れ込むには早すぎるだろう。

しかし運命を感じたのは、本当だ。

病気で大好きな自転車に乗れなくなったと聞いた時には、不憫さで胸が痛いほどだった。

庇護欲にも似たモノを感じている。

……幸せにしてやりたい……初対面でそんな風に思わせる女の子に出逢ったのは、はじめてだ。



薫の真摯な言葉を、あけりは素直に受け止めた。

まっすぐなヒトだということは、わかっている。

そして、自分が……かわいそうと思われていることも……いつものことなので、あけりは正しく理解していた。

「……ありがとうございます。お気持ちは、よく、わかりました。……あ、次の橋で左に曲がってください。」


薫は、言われるがままに左折のウインカーを出した。

そのまま、あけりのナビに従って、到着したのは上賀茂神社。

参拝者駐車場で車を降りると、木々の向こう側がピンク色に染まっているのがよくわかった。


「私、ここの御所桜が好きなんですが……先にお詣りしましょうか。」

あけりの先導で、薫は境内を進む。

二ノ鳥居をくぐって、細殿のすぐそばの鮮やかな紅色の「みあれ桜」に、薫は目を奪われたようだ。

「……なんか……既視感……。」

「よく京都の宣伝に使われてはるから。」

さらりとそう言って、あけりも桜を眺めた。