中間テストが終わった翌週、早速、採点済の答案用紙が返却されてきた。

どの教科も満足できる点数なのだが……徳丸の古典だけは、平均点よりわずかに高いだけに留まった。

……徳丸は、授業で習ったこと以外の、知識を要求するボーナス問題を必ず出題するのだが……あけりのように教科書通りの学習しかしない生徒には、加算を望めない。

せめてお能の謡い関係の問題が出題されれば、少しは知識が増えているのだが、今回は漢詩。

どうやら三国志演義の好きなヒトにとってはたやすい問題だったらしいが、あけりには全くお手上げだった。



「聡くんならできた?」

土曜日の午後から一緒にお能を見に行った聡にそう尋ねてみた。

「あー、まあ?白文を読み下す程度なら?……酒に対して当(まさ)に歌うべし、ってやつだよね?」

「……聡くんなら100点超えたわね。」

憮然としてあけりはそうぼやいた。





「で?進展あったんじゃないの?……今節の師匠、顔付きが違うんやけど。」

終演後、タルトタタンを食べながら、携帯で薫のレースを観戦した。

今日は記念……つまりG3レースの2日め。

初日特選レースで逃げて2着だった薫は、この日の最終レースでも人気を背負っていた。

「ん……。進展……なのかな。うちのママがしょーりさんと結婚してたことを薫さんに言った。」

「え!マジ?」

「マジマジ。……でも、そこまでだけ。」

言外に、あけりが泉を好きだったことはバラしてないと伝えた。


聡は、不思議そうに首を傾げた。

「ふーん?でも、どうしてそんな中途半端になったの?……あけりさんじゃなくて、ご両親が言ったの?」


……図星だ。

どうして、聡は何でもすぐ察知できてしまうんだろう。

すごいなあ……。


「うん。パパさんが……。あの……薫さんが、私の病気のこととか心配みたいで……結婚するとか言い出してて……それで……。」


あけりがもごもごと説明すると、聡は、がくりとうなだれて、そのまま右腕をテーブルにつけてずるずると突っ伏した。


「……マジかよ……。展開早すぎるやろ、それ……。」

くそっ。

やられた……。

まだ結婚できる年齢に達していない上に、社会人ですらない聡には、真似できない早業だった。


「……ん。そう思うんだけど……何か、意外とパパさん、前向きというか……。」