「……今のところ、そのまま上の女子大に行くつもりですが……指定校推薦で、どこか別の大学に行くかもしれません。まだ決めかねてます。……目標が、ないんです。」

あけりは淡々とそう答えたけれど……自分の言葉に、ため息をついた。


目標がない……。

人生の目標。

自分が何をしたいのか、わからない。

かつては、自転車に乗っていれば幸せだった。

プロになるとか、オリンピックに出るとか、競技会でイイ成績を納めるとか……そんな大望は抱いていなかったけれど……自転車に乗り続けていれば、いつか届く気がしていた。

……大好きな人に。



「ふーん?じゃあ、部活は?普段、何してるの?……彼氏、いる?」

薫は、たたみかけるように一番聞きたいのであろうことまでも言葉にした。


あけりは、ちょっと笑ってしまった。

「いませんよ。部活もしてません。普段は、学校と家と、たまに病院を行き来するぐらいです。……あとは、お寺と神社に行くぐらいですねえ。」


彼氏がいないと聞いて、薫はあからさまにホッとした。

そして、聞いてもいないのに主張した。

「あのさ、俺も、タイミングよく、今、フリーなんだ。……もし、嫌じゃなかったら、俺と付き合わない?」


……さらっと、そんなことまで言っちゃうんだ。

オトナというか……手慣れてるというか……。

あけりはしばしの沈黙の後、ぽつりとつぶやいた。

「……簡単に言うんですね。」


やっと口を開いたあけりの言葉の不穏さに、薫は自分がまた失敗したことを誘った。

「いや、ごめん!簡単じゃない!ほんっとに、タイミング良かったからさ……勝手に運命感じたんだ。ごめん!性急過ぎるよな。」

慌てて言い訳してみたけれど、全然説得力がない。


……迂闊なことは言えないが……でも、本当に薫は、それまでつき合っていた彼女と別れたばかりだった。



すべからく人生は流れに逆らうべきではない。

薫はずっとそう思ってきた。

だから、父の海外転勤に従容と同行した。

師匠との出逢いに運命を感じて競輪選手にもなった。