考えても無駄なことは、考えない。

時間の無駄だ。

いつだって、薫はそう割り切って、目の前のやるべきことに全力で取り組んできた……つもりだ。

だから、今も黙々とローラーを踏んでいる。


あけりの中間テストが終わるまでの約一週間。

ぽっかり空いたこの期間を、薫は無駄にはしなかった。


両親にはすぐに話した。

市議会出馬の準備を進めている地元の顔役の父は、結婚相手は、髪の色を明るく抜いて派手な身なりで遊び歩いている子じゃなければいい、と言った。

両親の中の嫁の基準値は、幼馴染のにほなので、少なくとも普通に働いている子でありさえすればよかったようだ。

「や。髪は黒いし、化粧もしてないし、くそ真面目なお嬢さまだけどさ……高校2年生なんだ。」

薫の言葉に、父親は一瞬怯んだが、母親はズケズケと言った。

「あかんやないの、それ。あちらの親御さんに訴えられたら、犯罪者よ。」

「うん。せやし結婚してしまったら問題ないやん。それに彼女が進行性の難病らしくて……そばで支えてやりたいから。」 

薫の説明に、今度は母が押し黙り、父が前のめりになった。

「難病か。……とりあえず、連れて来なさい。話はそれからやな。」

ピンと来た。

父は、あけりの病気のことさえも、自分の地位に利用しようとしている……。

反発はあった。

でも、今、文句を言ってしまえば、成る話も潰されてしまうだろう。

全ては、あけりちゃんに実際に逢ってからでいい。

今の彼女は誰が見ても、真面目で綺麗なお嬢さんだ。

きっと両親の、特に父親の眼鏡にかなうだろう。



薫は、将来の為に、青臭い正義感を封印した。

あけりちゃんのためなら清濁併せ飲む……。

それは、はからずとも、あけりの継父と同じ気持ちだった。



お父さん……か……。

あけりちゃんには、父親が3人いたわけだが……まさかうちの師匠が最後の1人だったとは……。

あの、師匠が……あの、美人のあけりちゃんママとねえ……。

確か師匠、最初の奥さんと子供を、あけりちゃんママの為に捨てた……って言ってたよな。