「……車だけどさ……乗り心地と安全性から、国産車のセダンを勧められたんだけど……あけりちゃん、トヨタと日産ならどっちがいい?」

あけりの頭を撫でながら、薫がそう尋ねた。


「……どっちでもいい。……コレより小さければ何でもいい。今は……薫さんが遠くて……脇腹、釣りそう……。」

「あー。うん。そうだね。」



何度尋ねても、あけりは好みの車種を挙げない。

いろんなメーカーに連れ回して決めるつもりだったが、どうも体調がよくなさそうなので、疲れさせることはしたくない。

何種類かを試乗して購入するにしても、2、3種類に絞ったほうがいいだろう。

薫は薫なりに一生懸命考えているのだが……あけりは、本気で何でもいい……というより、どうでもいいと思っていた。


「値段も燃費も度外視で、あけりちゃんが乗り心地がいいと思える車を選んでほしいからさ、中間テストが終わったら、一緒に試乗に行こう。」

「……うん。ありがとう。」

めんどくさいけれど、薫の気持ちはうれしい……と思うべきだろう。

あけりは、渋々うなずいて、お礼をつけ加えた。




帰宅すると、待ち構えていたらしく、継父が薫を引き留めた。

「まあ、一緒にご飯食べていきよし。水島くん、独り暮らしなんやて?自炊なんかせんやろ?外食より、家庭の料理のほうが、身体にええで。」

「はあ。ありがとうございます。じゃあ、遠慮なく。」

多少面食らったが、薫は継父の誘いを好意と受け取った。


「……ママの料理、あんまり美味しくないのに……。」

あけりがそうこぼすと、薫がニッと笑った。

「じゃあ、あけりちゃんが美味しい料理作ってーな。」


……そう来たか。

でも……それも、悪くない。

あけりは、こっくりうなずいた。

「わかった。お料理の勉強する。……薫さん、身体が資本だし……味だけじゃなく、栄養学的にも考慮しないと。」

「え!?」

驚いて振り向いたのは、薫だけではなかった。

むしろ声を挙げたのは継父のほうだった。


あけりは、気恥ずかしさに頬を染めた。