翌日のお昼前に、あけり宛に宅配便が届いた。

差出人は、水島薫!

中には、坊っちゃん団子と一六タルト、砥部焼のマグカップ、そして派手なサイクルジャージが1枚。

……松山のお土産セットってこと?

ジャージだけは母のあいりにバレないように隠して自分の部屋に持ち込んだ。


「……どなたか知らないけど、お礼のお電話しなさいよ。」

母にそう言われて、あけりは送り状に記された番号に自分のスマホから電話をかけた。


聡の手前、連絡先を交換することはなかったが……これは、薫からのアプローチだろう。

必要以上に、心臓がドキドキと音をたて、緊張を強いられた。


『はい?』

低い声……。

こんな声だったかしら。

「もしもし?私、濱口あけりです。水島さんですか?」

恐る恐るそう尋ねると、電話の向こうでガタガタと音が鳴り、続いて声のトーンがやけに上がった声が聞こえてきた。

『あけりちゃん!?俺、俺!荷物届いた?』

「はい。つい今しがた、受け取りました。あの……ありがとうございます。」

型どおりのお礼を述べると、あけりは肩の荷がおろせた気がした。

緊張から解放されたあけりは、続けて言った。

「突然で驚きましたが、うれしかったです。……でも、できたら、水島さんのサインも欲しいです。」


電話のむこうで、薫のテンションがさらに上がったのを感じた。

反比例して、あけりはさらに落ち着きを取り戻した。


「松山のレース、4日間ともリアルタイムでネット観戦してました。……決勝戦、残念でしたね。でも追走義務違反にならなくてホッとしました。お疲れ様でした。」

『……マジで観てくれてたんや。』

薫の喜びが伝わってきた。


「はい。ファンですから。」

あけりは、ことさらにファンを強調した。


『あのさ!』

また、薫の声のトーンが上がった。


「はい?」

『……ちょっと……買い物したくて、市内に来てるんやけど……よかったら、これから一緒にランチ、どう?』


ピンときた。

買い物は建前で、あけりに逢いに来たのだろう。


よく見れば、荷物は今日の午前中着と時間指定されている。

あけりがお礼の電話をかけなければ、あきらめて帰ったのだろうか。

それとも、自宅に押しかけてくるつもりだったのだろうか。